環境変化に順応してライフシフトする

私たちを取り巻く環境変化

前回は、第二次世界大戦後の経済成長に合わせて形成された従来型の「3ステージ・モデル」について解説しました。

このモデルは、国や会社に大きく依存するものであり、サラリーマンとして長期に渡って働き、60歳になったら定年を迎えて、退職金と年金で暮らすことを前提としたモデルでした。

しかし、時代が変わり、この「3ステージ・モデル」の人生が、現代社会には合わなくなってきているのではないかと感じている人も多いと思います。

今回は、そうした私たちを取り巻く環境変化について、説明していきます。

現状のまま、「3ステージ・モデル」を続け、国や会社に依存し続けていると、将来、お金のリスクがあることをあらためて理解していただけるのではないでしょうか。

また、お金のためにストレスの高い仕事を長く続けなければならなくなると、人生の幸福感を得られなくなってしまいます。

そうならないように、先手を打って環境変化に順応していくためにも、私たちを取り巻く環境がどのように変化しているのかを把握しておきましょう。

健康寿命の長期化

2021年時点での日本人の平均寿命は男性81.47歳、女性87.57歳です。

30年前の1991年時点では、男性76.11歳、女性82.11歳でしたので、それぞれ5年以上寿命が長期化していることになります。

今後は、医療の進歩や健康志向の高まりにより、更に寿命が延びることが想像できます。

人生100年時代と言われていますが、けっして大袈裟ではありません。

寿命が長期化することは、与えられた時間が延びる点では、私たちにとって良いことです。

しかしながら、それは生活費がより長期に渡って掛かることも、同時に意味します。

生きている時間が伸びて、生活費が多く掛かることになる一方で、年金は受給開始時期が遅くなります。

少子高齢化が進み、将来にわたって、現在の年金額を維持することも不安視されています。

こうした状況下、老後の暮らしを心配ないものにするために、私たちは働く期間を長期化する必要があります。

現在、早朝から深夜まで、社畜のように働いている多くのサラリーマンは、60歳過ぎてもこの働き方を続けるのかと思うとうんざりすることかと思います。

今の働き方を60歳を超えてまで続けることは、心身ともにとても持たないでしょう。

私たちは、人生100年時代という長寿のご褒美を頂いた代わりに、人生後半の生活費をどう捻出するかという課題を同時に背負うことになります。

長期間、働いて収入を稼ぐことが一つの解決策ですが、充実感があって、持続性のある働き方に変えていく必要があるのです。

テクノロジーの進化

健康寿命の長期化によって、私たちは働く期間も長期化しなければいけません。

しかしながら、人間の仕事は、テクノロジーの進化により、AIに取って代わられつつあります。

テクノロジーの進化は止まることがありません。

特に、単純作業のようなルーティン業務は、AIの得意分野ですので、これらの仕事は既にテクノロジーに代替されてきています。

一方で、創造性や共感性、複雑な問題解決などを必要とする仕事は比較的人間が優位です。

私たちは、こうしたAIではできないような、人間らしい仕事をしていかなければいけません。

既に、企業が求める人材は大きく変わってきています。

テクノジーの進化に加えて、国際競争激化もあって、欧米で主流の「ジョブ型雇用」へのシフトが日本企業でも進んでいます。

「ジョブ型雇用」は、その職務に適した高度なスキルや経験を持つ人を雇用する形態のことです。

これまでの日本企業は、長期雇用前提の「メンバーシップ型雇用」が中心でした。

長期に渡って、同じ会社に雇用されることで培われた社内で通用するスキルを生かし、会社に貢献することが期待されました。

しかしながら、社内でしか通用しない業務やルーティン系の仕事は不要になってきています。

これからは、ほとんどの業務はAIに取って代わられ、高度な専門スキルや経験がある人材が求められるようになるのです。

社内での競争はますます激しくなり、高い専門スキルを持たない社員やパフォーマンスが不十分な社員の居場所は少なくなってくるでしょう。

日本の財政と年金問題

日本の債務残高

日本の普通国債残高は1,029兆円に上り、債務残高は経済規模(GDP)に対して2.6倍にまで膨れ上がっています。

税収を生み出す元となる国の経済規模(GDP)に対して、総額でどのぐらいの借金をしているかが重要になりますが、この水準は先進国の中でも突出しています。

イタリア1.5倍、米国1.3倍、フランス1.1倍、カナダ1.0倍、英国0.9倍、ドイツ0.7倍の中、日本は2.6倍です。

参照:財務省HP

人口減少、低成長で税収が限定される中、財政不安は更に高まるかもしれません。

信用不安から日本売りとなれば、国債価格下落(金利上昇)、円安となるリスクがあります。

低成長はまだ続く

少子化に歯止めがかからないため、低成長はまだまだ続きそうです。

2022年の出世数は、前年比5%減で80万人割れになったと厚生労働省から発表されました。

そもそも、出産適齢期の人口が減っていることに加えて、結婚する人が減っているので、減少スピードが想定より早くなっています。

教育費負担が重すぎて、家族を持つハードルが高くなり、結婚する人が減っているのではないかと想像されます。

このような少子化、人口減少という構造的な問題に対して、抜本的な対策は打たれずにきました。

最近になって、岸田首相が、次元の異なる少子化対策に取り組むと宣言しましたが、実効性のある具体策はまだこれからというところでしょう。

こうした、構造問題への対処をしないまま、日本は経済低迷を金融緩和という応急処置で凌ごうとしてきたのです。

黒田氏の前の日銀総裁だった白川方明氏は、国際通貨基金(IMF)の季刊誌への寄稿文の中で指摘しています。

長期の金融緩和が、「生産性向上への悪影響」をもたらしているとのことです。

長引くデフレは、急速な高齢化と人口減などの構造要因であったが、金融緩和での応急処置を続け、より抜本的な構造改革が進まず、生産性への悪影響が懸念される事態になっていると述べられています。

日本経済の低成長は、これからも続くことを想定しておいた方が良さそうです。

円安とインフレ

円安になると、物価が上がり出すことは、昨年の急激な円安で体感しました。

将来、財政問題が深刻になった場合には、一段と円安になるリスクがあります。

その場合は、輸入物価が上がり、インフレもますます進みます。

物価が上がれば、同じお金で買えるものが少なくなり、金利がほぼつかない預金や増えない給料の価値は減っていきます。

30年前と比べて、日本の平均賃金は横ばいとなっています。

国税庁のデータによれば、1989年に425万円だったサラリーマンの平均給与は、2019年には433万円となっており、ほとんど変わっておりません。

一方で物価は上昇し、物価上昇分を差し引いた実質賃金は下がっています。

先日、厚生労働省が発表した2023年1月の実質賃金は、前年同月比4.1%減でした。

これは10か月連続の減少で、下落率は2014年5月以来、8年8か月ぶりの大きさとなりました。

ファーストリテイリングなど一部企業に賃上げの報道はありますが、実際に上がっている人は限定的かと思います。

多くの企業が、全般的に上げられるような経営状況ではないことは、サラリーマンなら誰もが実感として持っているのではないでしょうか。

賃上げ率よりもインフレ率の方が高くなり、実質的な賃金減少となる状態は、将来円安が一段と進む場合には、ますます顕著になるでしょう。

年金2,000万円不足問題

2019年に、金融庁が発表した年金2,000万円不足問題が、マスコミに大きく取り上げられました。

金融審議会の市場ワーキング・グループ報告書によると、老後の30年間で想定される生活費は、年金だけでは2,000万円不足するということです。

あくまでも、報告書の内容は、モデルケースによるシュミレーションであり、受け取れる年金額や老後の生活費は、個人の事情によってそれぞれ違うと思います。

しかしながら、高齢者を支える労働世代人口の減少や、低金利による運用難によって、将来受け取れる年金受給額が楽観できるものではないことは容易に想像できます。

年金受給開始年齢は65歳からになりますが、さらに受給開始時期を引き上げると支給額は増えます。

年金をもらえる時期を遅くすれば、年金の額が増えるのであれば、受給開始のタイミングを遅らせることも選択肢の一つです。

受給開始時期を遅らせるためには、やはり私たちは、長期間に渡って働かなければならないのです。

また、「つみたてNISA」や「iDeCo」を活用して、コツコツと老後資金を貯めていくことも重要です。

まとめ

人生100年時代となり、私たちは長寿というご褒美を頂きましたが、それと同時に、長い期間の生活費を賄うという課題を持つことになりました。

そのため、なるべく働く期間を長期化することが必要になります。

一方で、テクノロジーの進化により、私たちの仕事はAIに奪われていきます。

企業は、より専門性の高いスキルや経験を持った人を雇用する「ジョブ型雇用」に移行しつつあります。

長く働かなければいけないのに、いままで通りの働き方を続けることが難しくなっています。

こうしたことは、世界的な潮流ですが、特に日本の状況を考えると、更に厳しい現実が見えてきます。

少子高齢化による人口減少による低成長が続き、財政不安や年金不足問題を抱えているのです。

また、低成長で賃金が横ばいの中、円安やインフレによって実質的な賃金は減少しています。

このような環境の中で、従来型の「3ステージ・モデル」で、定年まで働き、定年後は年金に頼るライフスタイルでは、幸せな人生を送れないと感じます。

環境変化に順応して、「3ステージ・モデル」から、持続的で充実感のある働き方を中心とした「マルチ・ステージモデル」へとライフシフトしていくことで、幸せな人生を掴むことができるのではないでしょうか。

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